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第71話 逆光の中の幻

2011年10月05日 22:59

前話で紹介したあの写真の場所は、私の秘密の場所で、鹿などは時々見かけるが、見てのとおり人と出会うような事は滅多に無い場所だ。だからここではイシュたちを完全フリーにしていたほど(もちろん呼び戻しは完ぺき)。先日、いつものように、日が傾いてきた頃にここへ到着した私は、低くうごめく何やら妖しげな動物を発見した。逆光で見えにくいが、それは、今までここでは、見た事も無い形をしたものだった。瞬間的に麓の木に刻まれていた恐ろしい爪あとを思い出し、私は強い恐怖心に駆られ硬直した。軍事用の強力なナイフで刻まれたような酷い傷。人間があのように引掻かれたら、ひとたまりも無い。命が助かったとしても、体は深くえぐられ、途方も無い重傷を負うだろう。


よく見えないが、あのサイズからいくと子熊か。ならば最悪だ。近くに子供を守ろうとして私を睨み付けている親熊が必ず居るはず。どうやって私を倒そうか、今思案しているのか。・・・心臓が高まる。それでなくともこの場所は、山荘から延々続く上り坂を登りきった所だ。「ハアハアハアハア」と息が苦しい。あの時、私の心拍数は、極限まで高まっていたのだろう、どうしても荒い息を抑える事が出来なかった。荒い息は親熊をひどく刺激する。ああチューちゃん、何でこんな肝心な時に君は居ないの・・・。やっと君達の出番が来たというのに・・・。「もう、この役立たず!」などと意味不明な愚痴をつぶやき、もうとっくの昔に天国の住民になっている愛犬に八つ当たりをしながら、それでも天に向かって、「チューちゃんHELP!」と、私は心から祈った。涙がちょこっと出た。 ・・・ すると、信じられないような、とんでもない奇蹟が起こった。


まぶしい逆光の中、子熊がすくっと立ち上がり、こちらの方を向いてくる。その瞬間、なぜかキラキラと輝きだし、逆光の中でもはっきり分かるほどの、美しい、鏡が放つような不思議な光線を出しながら、熊とは異なる生き物が、徐々に現れてきた。私は信じられなかった。夢だ、現実ではない。これは幻だ。私の脳が勝手に作っている幻覚だ、信じてはいけない!と自分に言い聞かせた。突然そこからUFOが現れ、宇宙人がこちらへやって来た、というぐらい有りえない話が、私の目の前で起こっているのだった。 ・・・ 逆光の中から現れたのは、恐ろしい人食い熊ではなく、ライオンでもなく、なんと! ・・・ 小さな女の子だった。 いいですか、あんな時間に、人など絶対来ないあんな場所に、居ますか?女の子がひとりで!



実は最近私は目の調子が悪い。原因ははっきりしている。テレビの見過ぎだ。それでなくとも仕事上長時間パソコンを見ていなくてはならないのに、その上に長時間のテレビ視聴は、やはり応える。今は特に、例のトリプルチューナーのおかげで、見たい番組がどんどん貯まっているうえに、韓国ドラマ「イ・サン」にハマってしまい、全話そろえて連日長時間見ている。これでは目に悪いのは当たり前だ。それにしても、まぶしい逆光の中とはいえ、人間を怪物と見間違えるなんて、オイラもモウロクしたものだ。あるいは、弱虫で怖がりなせいなのだろうか。人が来ない道を、鹿の鳴き声などにビビリながら一人でポツポツ歩いていると、チューちゃんが居ない自分が、如何に無力でもろい存在か思い知らされる。そして、時々無性に怖くなる。木がカサカサ小さな音を立てても怖がる。「チューちゃん、パパなさけないね」と、そんな自分を嘲笑いながら、私は悲しい気持ちで、この道を歩いていた・・・。


彼女は麓のホテルに勤める自称18歳(本当は20代半ばらしい)のフリーターで、今まで北海道の牧場や中央アルプスの山小屋などでバイトをしてきたという。英国でも働いていたそうな。そういうところは今ドイツに居る元妻とそっくりだ(奇遇にも名前まで同じ)。最近は、当てもなく海外に移住したり、独りで山歩きをするような、積極的で自由な女性が多いという。ま、良いことだと思う。「おしん」の世界より百倍いい。あそこで彼女が地面にしゃがみこんでいたのは、スケッチをしていたからだそうで、私も絵描きの端くれだから話が合った。すると、「ぜひ油絵を教えてください!」と頼まれた。残念、ちょうど翌日別荘を引き上げ、名古屋近郊の自宅に帰るところだった~~が、もちろん言うまでも無く、「いいよ、用事済ませて来週またすぐ戻るよ」と答えた。聞けば、幼い頃からピアノを習っているという。勤務先の友人に、バイオリンを弾く人もいるそうな。素晴らしい。「ぜひ合奏しよ!」という話になった。最近弾かなくなってしまっていたが、実現すればモチベーションが、ぐーんとあがりそうだ。 本当に遊びに来てくれるとうれしい。


それにしても、彼女は自分がどれほど自分を危険にさらしていたのか、わからないのだろうか。一人旅のハイキングや温泉めぐりの女性が、通りすがりの男に襲われ、惨殺される事件が、いくつもおきている。少子高齢化による日本全体の過疎化のせいか、人の目が届きにくい場所が増えている気がする。あるいはそういう所へ入り込む女性が増えてきているのだろうか。そういう話を彼女にしても、まだ若いせいかケロっとしている。人は誰でも災害に対して、「私は大丈夫」という根拠の無い自信を、災害にあって死ぬ直前まで持っているという。 ・・・ 彼女の幸運を祈るばかりだ。 無垢な、とても感じの良い子だった。麓のホテルまでは一時間程かかる。その頃には真っ暗だろう。私は送ってあげることにした。おかげでたっぷりおしゃべりができた。先日の乗馬クラブの子との会話は、やはり「客と店員」だったが、今回はそういう営業的なものは皆無だったので、純粋に会話を楽しめた。 とても楽しかった。 ありがとうね○○ちゃん。

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この場所で出会った。その時は逆光がとてもまぶしかった。

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麓の木の恐ろしい爪あと。たぶん熊の仕業だろう。

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幻でない証拠に記念撮影。人なつっこい笑顔。可愛い。道に注目。日が暮れると真っ暗になる。暗い山道を女の子が一人で通るのは、かなり危険。




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