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第69話 男と男の戦い?

2011年09月25日 17:07

山荘の周辺はもちろん木だらけである。荒廃する日本の林業全体の問題をここでは論じないが、この山も当然のように間伐などしてくれないから、周囲の森林は年々弱体化している(間伐をしないと森はどうなるか、興味のある方は調べて欲しい)。しかし個人が勝手に木を切ると、「山に木が無くなり大変」、という今では現実離れした昔からの考えが有る為に、ここでは切ることを厳しく制限されている。馬鹿な話である。結果、ますます森の弱体化が進んでいる。また、おかげで、どんどん成長する木が山荘の周囲を覆い、洗濯物が乾きにくい、夜空の星が見えにくくなったなどの弊害も出てきている。大木に成長した木は、最早素人では手に負えない。ナントカするためには、いろいろなところを回って許可をもらい、伐採業者を手配し、大金を支払い、間違って家が押し潰された時の準備までしなくてはならない。まったく、大変な話だ。だが例外的に正式な許可を得ずとも切る事が許される場合がある。台風などで木が傾き、人や家に危険が迫っている場合だ。今回はそれに当てはまる。私は、独自の判断で、家の近くの傾いている木を切ることにした。


台風が過ぎたある日、テレビを見ていたら、今まで普通に見えていたBSが見れなくなっていたので、様子を見に行くと、アンテナは異常なし。微動だにしていない。周囲を見渡すと、やっぱりあった。白樺の木が一本傾いていた。もし変に倒れて家に向かってきたら大変だ。家が壊れるだけでなく、最悪私の命にも関わる。何年掛かるか分からない国等の許可を待っている暇など無い。緊急避難処置という理屈で切る決意をした。だが用意できる道具は、折りたたみ式の小さなノコギリのみ。たしか980円だ。電動チェンソーが有ったはずだが見当たらない。自宅へ持って行ったか・・・。はたしてこの安っぽいノコギリで、この大木を倒せるのか。到底不可能に思えたが、家をつぶされない為には今切るしかない。小さな啄木鳥やビーバーでも倒せるのだ。きっと出来るはずだ。今から考えればかなり危険で無謀だが、私は切り始めた。


私はきこりではない。ただの素人だ。だから事前に勉強を始めた。こういう時ネットは本当に便利。家に巨大な図書館があるようなもので、多くの情報が得られた。様々な文献を読んである程度の知識を得たのち、作戦を練った。なにせ道具があれだ。途中でダメになったらお手上げになる。ノコギリに余計な圧力がかからないよう、あらゆる注意をはらわなくてはならない。その上で一番大切なのは、倒れる向きを確定させる事だろう。傾斜等を計算し、絶対に間違えが起こらないよう慎重に切れ目を入れる。いわゆる「受け口」というものだが、セオリーから行くと、倒す方向は、当然斜め下になる。しかしそちらには家がある。だから、セオリーとは逆の、斜め上に倒さなくてはならない。通常そんな危険な事は出来ないが、幸いにも木はそちらに傾いている。そこへ受け口を切れば、計算上斜め上に倒れるはずだ。また、チェーンソーではなく、貧弱なノコギリだから、逆に時間に余裕を持って少しずつ確認しながら切れるはず。よしこれで行こう。


小さなノコギリで大きな生木を切るのは、困難を極めた。切れ目を深く入れるのは不可能だったので、ビーバー作戦で行った。少し切っては圧力が遮断された方から新たに切れ目を入れ、切られた部分を取り出す。そして圧力フリーになった状態の所でまた切れ目を入れる。その繰り返しで少しずつ受け口を削り取った。土壌弱体化のせいで強風に対抗できず傾いたとはいえ、健康で若い立派な木だ。太さもけっこうある。その身はびっしり詰まっていて、石のように重く固い。まるで、「切られてたまるか!」と、必死に抵抗しているような強靭さだ。 ・・・チェーンソーではなく、貧弱なノコギリだった為に、この木とのファイトを、たっぷり味わう事になった。それは、両者命がけの、本物の戦いだった。不安定で軟弱な地盤の上でセオリーとは逆の斜め上の方向に倒さなくてはならない。倒れるまでは何が起こるかわからない。私はこの木に潰される恐怖と戦いながら切り進めた。頑なにノコギリの歯を跳ね返そうとする白樺の木。戦いは延々と続き、そしてとうとう最後の時が来た。戦い終わって、この木がゆっくり倒れ始めた時、私は、思わず感傷的になった。 風のせいか気のせいか、その時、周囲の木々が騒いだように感じた。山へ来るといつも森の精霊たちと親しく語り合う私だが、この一件で嫌われたかもしれない・・・。

それにしてもあの強靭さ。 私は、あの若い白樺に、男を感じた。私も男だ。負けてたまるかと頑張った。あれはまさに男と男の戦いだったのだ。


さあこの木をどうしよう。このまま放置して腐らすのは申し訳ない。美しい白樺なので、工芸品とか、なにか有効利用できないだろうか。そういえば肺癌で無くなったあのご近所さんは、趣味で上手にいろいろな木工製品を作っていたな。教えてやるよとおっしゃっていたが、その前に亡くなってしまった・・・。 そうだ、暖炉の薪にしよう。それがいい。私に倒された白樺君よ。立派に有効活用させてもらうよ。(合掌)

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リビングから見た光景。間伐がされていないため、うっそうとしている。私は、特に夜、森の木を見ていると、彼らと何か語り合っているような気になる。例えば山に到着した時、「ただいま。帰ってきたよ」と語りかける。すると、「お帰り」と言われるような気がする。童話の読み過ぎ? しかし確かに一本一本の木にそれぞれ表情があり、私は何かを感じる。

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枝ではない。奥の木が傾いて危険な状態。弱体化した土壌のため些細な事で木が傾く。

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木そのものは健康だった。軽そうに見えるがビクともしないほど重い。人の上に倒れれば、ひとたまりもなく潰される。



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