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第56話 さびしい芸

2011年06月22日 12:59

犬に芸を教える事は、とても良い事だと思う。犬の活性化、運動やスキンシップをする為に、飼い主は色々な事をするわけだが、通常おもちゃ遊び等では、10分もすれば飽きられてしまう。だが、教え込まれた何かの芸に成功し、人間からヤンヤヤンヤと称賛されると、犬は鼻高々になり、ノリノリのハイな気分になるのか、次々に繰り出されるコマンドにも、喜んで反応してくれる。犬にはそういう単純で可愛らしいところがある。この特性を使わない手はない。


芸を教え込むのは簡単ではなく、高いスキルが必要だが、飼い主が短気さえ起こさなければ、失敗しても成功しても、犬と飼い主との親密度は増し、絆がより深まる。なぜなら少なくともその間一緒に過ごし、共同作業をする時間を持つからだ。そして、運良くもし成功すれば、それは非常に大きな、その子にとって一生の財産になる。その芸のおかげで、いつでも、タダで、芸が成功するたび飼い主にも犬にも喜びが得られ互いに愛情が増すというご褒美が、生涯得られるからだ。



良いこと尽くめだが、ただし、芸の調教に失敗した飼い主が癇癪を起こし、「お前はなんてダメな奴なんだ!」等とののしれば、その子の心は傷つき、場合によっては深刻な事態になる。「冷静な調教なんて自分には無理」と思うのなら、せいぜいオスワリ・オテ・フセ・マテぐらいにしておいた方が良いかもしれない。調教中の音声を録音し、自分のトーンを確認する事をお勧めする。例えば「バカだなチューちゃん」というセリフでも、言い方によって、犬が愛情を感じる事もあれば、その逆になる事もある。調馬索で馬を調整するとき、「ホーホーホーホー」と声をかけるが、声のトーンを微妙に変えて、並足にしたり早足にしたり駆け足にしたりする。声のトーンで指示の内容が全く変わるわけだ。犬でもこれはほとんど同じ。だからトーンがデタラメだと、日によって、あるいはその時によって、指示の意味がコロコロ変わってしまい向こうは混乱する。


また、指示自体も、実は非常にデリケートなもので、本当はおそろしく緻密なものだ。第23話の馬術大会の動画を見れば分かると思うが、馬には難しい非常に高度な芸を、外部からはほとんど分からない指示で、騎乗者は馬を自在に動かしている。私の経験では、薬指を1ミリ動かすだけでも明確に指示が出せる(むろん手綱がきちんとコンタクト出来ている状態)。世界のトップクラスなら0.1ミリかも、は冗談だが、想像を絶する精密さなのは間違いない。人間が自分をコントロールし、指示のミスや無駄を極限まで無くせば、それぐらい緻密な指示を出せるようになるのだ。高度な芸をさせるには、そういった高いスキルが求められる。自分が指示のミスをしておいて、馬や犬のせいにし怒れば、彼らは極めて不快だろう。白い目でこちらを見てきた時は、たいていそういう時だ。最悪なのは自分が今ミスをしていることを想像すら出来ないことだろう。



芸の仕込み方は芸によってそれぞれ違うので、ここで紹介する事はできないが、ひとつだけ言えば、犬は、人間とは違う脳を持つという事をよく理解し、人間の常識を持ち込まない事だ。芸の仕込みは、ちょうどコンピューターソフトを作るのと似ている。積み重ねという概念が必要だろう。むろんソフトが製作者の思惑通り機能しないのは、コンピューターのせいではなく製作者の責任だ。Aという芸をさせる為に、どのような作業が必要か、それをできるだけ細かく分類し、犬の思考回路の特性を考えながら順序だて、それぞれの作業について、第54話で記したように、「イエス・イエス・グー。イエス・イエス・・・・・イエス・グー。( ・・・ ← 違う場合、ダメ!馬鹿!等と言わず、無言に!)」というように探っていく。「グー」の時にしっかり記憶させられれば、グーごとに一歩一歩前進していく。肝心なのは、この一歩一歩を、楽しめるかどうかだ。楽しめれば、犬も人間もどんどん前進するはず。楽しめる工夫と心構えが必要だろう。疲れている時や機嫌が悪い時にするのは避けたい。



イシュが得意だった芸のひとつに、新聞運びがある。妻が門等でイシュに新聞を渡し、それをリビング等に居る私が受け取るのだが、成功したイシュに、「は~い、ご苦労さん。チューちゃんおりこうだね。ムチューーー!おりこうおりこう!」などと褒めると、イシュはとてもうれしそうな顔をした。ママも大喜び。3人そろってニコニコ顔の、楽しい、本当に幸せな瞬間だった。だから、二代目チューちゃん(チビッ子)にも、ぜひこの芸を仕込みたかった。ある日頃合を見て、私は本格的にこの芸の調教を始めた。まず新聞を上手に噛むところから始めた。最初は新聞をバラバラにしてしまったが、さすが頭の良いこの子は、すぐにコツをつかみ、最小限の傷で上手に噛めるようになった。


次に行ったのは、まだ小さいので持ち上げるのは難しいから、まず新聞を引っ張る事を覚えさせようとした。歯とあご等を使うメカニズムは、両者はよく似ている。引っ張るだけなら簡単で、失敗は少ないはず。 ・・・ ふふふ、よしよし良いぞ、思ったとおりだ。上手だね。おおブラボー素晴らしい!「チューちゃんオリコウだね!グー!グー!」とかなんとか言って喜んでいたその時、私は、重要な事に気が付いた。そう、人間が一人では、この芸は成立しないのだ。 ・・・ まあ、くわえさせて待たせ、私が離れて行って持ってこさせても良いのだが、なんか、それって、あまりにむなしくないか?と私は自問自答し、結局中止した。 順調に楽しく進んでいたのに、突然中止を宣告され(新聞で遊ぶ事を禁じられ)、チビッ子は、「え?なぜ??」とかなり不満げだった。「あははチューちゃん、パパ、アンポンだった!」と、私は自嘲したが、「しら~~~」という空気が流れ、チビッ子から白い目で見られてしまった・・・。


そういえば、イシュの時と違ってチビッ子の時は、こうやって、「パパのアンポン」と、ヒンシュクをかうことが、何かと多かったなあ~。

最近、孤独感が強い。まあそういう事を覚悟して今の生活スタイルを選択したわけだが、想像していた以上に辛い生活だ。一人暮らしは、私には向いていないのか。チビッ子が居た頃は、全然寂しくなかったのになあ~・・・。


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「チューちゃん起きて。新聞運びやるよ」 「へ?新聞運びってな~に?」 

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さすがチューちゃん。数日で新聞を上手に噛めるようになった。素晴らしい

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「は、しまった!よく考えたら運ぶ相手が居ない。チューちゃん中止!」  「へ?」

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「んも~~ワタチせっかく頑張ったのにー」と突然新聞噛みを禁じられチビッ子ぷんぷん


レスピーギ イタリアーナ この場面を思い出していたらこの音楽が浮かんだ。レスピーギといえばシチリアーナだが、これもけっこうイケル。なかなか良い演奏だ。







コメント

  1. wonwon | URL | tYvW6C8E

    お答え頂きありがとうございます

    盲導犬に関するの私の疑問にお答え頂きありがとうございました。

    高度な知性を持った犬にとって幸せとは、その能力が活用できる
    人生を送らせることであるということですね。

    犬を飼うということは、必要な分量の食事を与えて運動をさせれ
    ばそれでOKということにはならない。大切なのは、飼い主と犬と
    のコミュニケーションの質であることを、改めて実感しました。

    ありがとうございます。


    PS;
    リンクフリーと書かれてあるので、勝手に私のブログにこちらの
    ブログをリンクさせていただきます。

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