FC2ブログ

第22話 老馬の素晴しさ

2011年03月02日 17:23

乗馬愛好家にとって、最も良い馬とは何だろう。競技会で良い成績をあげる馬? 私は何よりもまず第一に、安全性をあげたい。これは意外と忘れられがちだ。自分だけは、あるいは自分の客にだけは、絶対に事故は起きない、と、事故が起きるまで誰もが思っている。乗馬は、心身の健康にとても良い非常に素晴らしいスポーツだが、反面事故で下半身不随になったり、時には死亡したりする事もある危険なスポーツだということを忘れてはならない。


私が所属していた倶楽部は、貸与馬が豊富にある所で、何十頭もの馬を体験した。また、勧められて友人の自馬にも乗った。その経験からいえば、やはり若い馬には、かなりリスクがあると思う。映画「風と共に去りぬ」の中で、幼い娘が子馬に乗って死亡するシーンがあるが、乗馬技術が未熟な子供が、経験豊富でおとなしい老馬ではなく、何をするか分からない危険な子馬に乗るなど、自殺行為に等しいといえる。


スポーツインストラクターは、押しなべて傲慢な者が多いが、乗馬指導員は特にひどい。客(=生徒)が、教えを全面的に請うという立場になるからだ。女性会員の中には、「先生は私を厳しく熱心に教えてくれている」と、彼らから怒鳴られる事に快感を覚える人までいる。だからますます増長するのだろう。その結果彼らは夢を見る。自分が担当する馬たちは、全て自分の意のままになるという現実離れした夢を。


例え指導員が何を言おうが、親は初心者の子供に、けっして若馬を買ってはならない。死亡事故が起きてからでは遅い。まずは老馬に乗って、基本を身に付けるべきだ。ではどんな老馬でもいいのだろうか。若馬よりはマシだが、あまり適当でない馬も少なからず居る。良い老馬とは、いわゆるプロや馬売りではなく、愛好家の自馬オーナーが、長い間、わが子のように、あるいは愛犬のように大切にしてきた、人間の良きパートナーとなっている馬だ。人間に対する親しみや信頼感、落ち着きがまるで違う。


少々飛べなくても、良いではないか。障害の高さを低くすればよいだけの話だ。確かに大きな障害を飛べばかっこいい。もらえる賞のグレードも高くなる。プロなら収入にも直結する。しかし、アマチュア愛好家にとってそれらは、虚栄心をくすぐる一時の快楽に過ぎない。どんなに障害が低くても、騎乗の出来が良かったか悪かったかは分かるはず。違いがあるとすれば、収縮のタメ具合と、馬の足のたたみ具合と、少々の跳躍力の違いだけ。肝心なのは、常に正しい歩調を保ち、馬の躍動を自分と一体化できているかどうかだ。


オーナーひとりが時々乗るぐらいなら、かなりの高齢になってもオーバーワーク(overwork)や、オーバートレーニングにはならない。つまり障害の高ささえ少々目をつぶれば、圧倒的に老馬の方が良い馬なのだ。やがて老いが進み、様々な故障や病気を患うだろう。そして最後は、究極の痛み止めをうってもらう事になるかもしれない。でも、それなら、きっと安らかな最後になるに違いない。業界関係者には、高さにこだわる事を煽るようなことは、是非やめて欲しいと切に願う。



ちなみに私は、馬の調教を、馬に無理をさせない自然調教法を提唱したアンソニー・パールマンに師事した。まあ先生の名著障害馬術 を読んだだけだが、しかし当時同じ試みをしていた私には、まさに天上人の降臨だった。隅から隅までむさぼるように読み、最愛の愛馬ロンで実践した。10年掛かったが、その成果は画期的に素晴らしかった。追い込んで無理に飛ばすのではなく、馬に障害を飛ぶ喜びを教えるその方法は、狙い通り馬の消耗が驚くほど低かった。同じ年齢の馬より、はるかに若く見えた。一方年齢相応に人になついており、最高の馬になっていたと思う。


この馬を手放す時、隣に居た女子大生が、「可哀想に」と無神経につぶやいた。彼女は知らないだろうが、それはオーナーの胸を切り裂く言葉だ。おかげで私は夜眠れなくなったが、ある時ベテランスタッフが、「まさか!あんな最高の馬を倶楽部が手放すはず無いでしょ!」と言ってくれた。無調教の馬はいくらでも手に入るが、お客さんを安全に乗せられる経験豊富な老馬は、乗馬倶楽部には大変価値がある。だから社交辞令ではなく、そのとおりだったと思う・・・

gh6y_convert_20110302170344.jpg
競技会練習場で、パールマン式の優しいタッチで馬をリラックスさせて飛ばす筆者。馬は りゅう爺



にほんブログ村 犬ブログ ドーベルマンへ
にほんブログ村

にほんブログ村 犬ブログ 犬 思い出・ペットロスへ
にほんブログ村

にほんブログ村 ライフスタイルブログ 一人暮らしへ
にほんブログ村




コメント

  1. ren | URL | 3cXgguLU

    こんにちは。

    私は馬も好きですが、乗馬クラブは敷居が高く…。
    でも犬猫であろうが馬であろうが、ひとたびパートナーとなると飼い主に愛を注いでくれます。
    決して見返りを要求しない愛情を。

    私も時々考えます、この子達(犬猫)と別れる日が必ず来ることを。
    想像するだけで涙してしまいます。
    とても辛い思いをなさったのでしょうね。
    でも、思い出の欠片をこれからもアップして下さい。
    きっと幸せな思いが沢山あふれたものでしょうから。

  2. イシュのパパ | URL | vfJUa5co

    コメントありがとうございます。
    ニャンコとドーベル、本当に可愛いですね。
    うらやましい限りです。

コメントの投稿

(コメント編集・削除に必要)
(管理者にだけ表示を許可する)

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://doberman05.blog100.fc2.com/tb.php/26-278000f2
この記事へのトラックバック