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第156話 犬は神の贈り物

2013年11月30日 19:42

私がドーベルマンを飼うようになったきっかけは、20年前に結婚したとき新妻からねだられたからだ。当時の私はどちらかといえば猫派で、もともとは犬も好きだったが、可愛がっていた飼い猫を近所の犬に咬み殺されたり、私自身学生時代バイト中に犬に襲われ重傷を負ったりと、散々な目に会ってきたので、当時犬は完全NG。まさか大型犬、しかも獰猛と有名なドーベルマンを飼うことになるとは夢にも思わなかった。大型動物が苦手だったわけではない。当時熱心に行っていた馬の調教では、愛馬たちにすべての愛情を注いでいたほどだが、愛くるしい馬たちと凶暴な大型肉食獣とではわけが違う。だから「冗談よしてよ」と内心思い、とても嫌だったのだが、はっきりそう言わなかったせいか都合よくOKと解釈され、いつの間にか子犬が来て、「はい」と請求書を渡された。あらゆる動物の中で最も可愛いと思われるドーベルマンの子犬を私はそのとき初めて見たわけだが、なぜ犬が世界中でこれほど繁殖に成功したのか、その謎が一つ解けたような気がする。「なんという可愛さ・・・」と思わずつぶやいたことを覚えている。以来私はドーベルとともに笑い、そして泣く人生を送ることになる。


元妻がドイツから帰ってきた。お土産に高価な美味しいワインをくれた。ドイツでしっかり稼いだのか気前がいい。ここのところの円安、つまり価値が低くなった円に対してドイツで稼いだ通貨の価値が高騰したわけで、円になおしたら予想外の高収入になったようで、帰国早々贅沢な新車を買ったりしてウハウハしていた。彼女は帰国して以来たびたび遊びに来てくれている。チュー太郎をひと眼に見て、「なんて可愛いの!」とすっかり虜になったようだ。先日も遊びに来て、夕飯を作ってくれた。彼女の久しぶりの手料理に、幸せな気分になった。彼女と愛犬と愛馬たちに囲まれた幸せに満ちた日々を懐かしく思い出した。「チュー太郎、本当に可愛いね」と私の自慢の子を、とても褒めてくれた。チュー太郎は人の心を和ます「癒し犬」になるよう細心の注意を払って育ててきた。まだ2才になったばかりだが、どうやらその成果が出たようだ。この20年間ドーベルマンという犬種を見てきて、飼い主への愛情の深さや、いじらしい忠誠心など、その優れた特性から癒し犬にとても向いている犬種だと私は確信している。私がどれほど彼らから癒されたかそれを私自身がよく知っているからだ。


彼女との別れは、あまりいい感じではなかった。その頃、子供同然になっていたドーベルマンのあの子が11歳で亡くなり、私たちは悲しみのどん底にいた。それだけではなく、当時私が20年以上やってきた事業が破たんし、私はいろいろ忙殺されていた。経験者でないとわからないだろうが、それは大変な状況だ。そのために長年連れ添った、誰よりも愛してやまなかった愛馬との生き別れを決断するなど、心の中は涙で打ちひしがれていた。そんな私に、彼女はとどめを刺すように突然離婚を告げてきた。信頼し、愛していたのに・・・。 気力が尽き果てた私は、ただひとこと「そう・・・わかった・・・」とつぶやくしかなかった。


そんな彼女が、あっけらかんとした笑顔で私を訪ねてくる。私も「よう」と迎え入れる。なぜこうなるのか。彼女の方はそういう性格からだろう。不思議なのは私の態度だ。大袈裟に言えば彼女は、絶体絶命的な状況の時に、無慈悲に、哀れな野良犬のごとく夫を捨て去った裏切り者だ。なぜ私は、器が大きいわけでもないのに、それほど大人な態度がとれるのだろうか。まあ、あれから10年近い時が流れ、わだかまりが薄らいだせいもあろうが、それよりもずっと大きいのは、やはりドーベルマンの存在だろう。妻と入れ替わりに我が家にやってきた2代目ドーベルの子犬。その圧倒的な可愛さに私は驚くほど癒され、この子を育てなくてはならないという責任感が芽生え、気力がわきたち、私はどん底から救われた。


思えばドーベルマンという素晴らしい神の贈り物を私にもたらしてくれた元妻。お互い今さら復縁しようとは思わないが今やドーベル好きを共に語れる貴重な友人だ。友人でいられるのもドーベルのおかげ。私に、ひとを憎むような卑しい心が芽生えずに済んでいられるのも、この可愛いドーベルマンたちのおかげなのだろう。

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どん底の心を救ってくれる子犬の可愛さ

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愛嬌たっぷりのチュー太郎。自宅の木もすっかり冬支度


 


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